にんげんだもの(1)

【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】


 にまにま。にまにま。

 口元が緩んでいる。


「なぁ、幾ヶ瀬」


 にまにま。にまにま。

 ご機嫌な表情でにやついているのは有夏だ。


「幾ヶ瀬ってば」

「おーい、幾ヶ瀬?」


 先程から何度目かの呼びかけを、しかしあえなく無視される。

 それなのに、なおも笑顔を崩さない有夏。


 傍らの眼鏡男はブツブツと職場の愚痴をこぼしていた。


「あの店長、やり口が汚すぎる。何がクリスマスディナー限定ポイントだ。客のマダムも気付け。いつものメニューと何ら変わらんことに。おかげで俺たちの休みがどんどん削られていく……」


 とどまるところを知らない悪口の内容は、いつものように店長の悪口だ。

 矛先は客のマダムにも向けられ、さらにシフトの愚痴が始まった。


 まぁ、いつもの光景である。


 いつものアパートのいつもの部屋。

 そう、何もかもいつもの光景だ──有夏の異様な笑顔を除いては。


「そっかそっか。早くそいつにお迎えが来たらいいな!」


 にまにま。にまにま。

 過激なことを言いつつも、笑顔は変わらない。


「にんげんだもの2」につづく
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