そうだったのか、胡桃沢家1

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 すでに24時を回っている。


 トボトボ…という足取りで、長身メガネがプラザ中崎の廊下を歩いていた。


 金曜ということもあり、幾ヶ瀬が勤めるレストランは目の回るような忙しさだったようだ。


 加えて交代で回ってくる閉店作業の当番にも当たっていて、帰宅がこんな時間になってしまった。


 キーホルダーと触れて音を立ててはいけないとの配慮から、カバンから鍵を出すのも慎重に。

 静かにキーを差し込んで、ゆっくりと回す。


「ただいま……」


 時間が時間なので、室内に入ってからも一応気を遣って小声である。


「幾ヶ瀬ぇ!」


 引きこもりの生活パターンとして典型的な夜型である有夏に、その気遣いは無用だったようだが。


 幾ヶ瀬の姿を認めると、彼は玄関に駆けてきた。


 靴箱の引き出しに鍵をしまおうとしていた幾ヶ瀬は、その場に棒立ちになる。


「幾ヶ瀬、遅い!」


 全体重をかけるような勢いで、有夏が飛びついてきたのだ。


 背中にギュッと腕を回し、顔を幾ヶ瀬の首筋に埋める。


 何度も名を呼ぶその声は、少し震えているようで。


「あ、有夏……ごめんね。遅くなって」


 面食らった表情が、すぐに緩む。


 同じくらい強く抱きしめて、幾ヶ瀬は恋人の耳元に何か囁きかけようとした。


 寂しかったとか、好きだよとか。そんな他愛もないことを。


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