夏のなごり7【完】

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 コンコンコン。


「ヒッ!」


 その音が激しくなったのだ。


 現世と霊界との境界を横切るような、まるで扉を叩くような音──そこまで考えて、幾ヶ瀬はチラと横目で扉を見やる。


 擦りガラスにうっすらと人影が映っていた。


 腕が扉にのびる。


 コンコン。


「あり、か……?」


 力の入らない手で何とかドアを開けると、しゃがみこんだ有夏が顔をあげた。

 何ということはない。

 音の正体は、恋人の仕業であったのだ。


「有夏、本当やめて……。悪戯がすぎるから。何でそんなにイキイキとしてるの?」


 有夏、良い笑顔で立ち上がり、こちらを見ている。


「いたずらじゃないかも? 実際さっき、幾ヶ瀬の背後に……」


 あーあーあーーっと幾ヶ瀬が吠えた。


「そ、そんなこと言う有夏には、お、俺のロケットお化けが襲っちゃうぞ!」


「ロケットオバケ…………」


「……って引かないでよ、有夏。不適切な発言でした!」


 チラと下を見て、有夏の笑顔は薄笑いへと変じる。


「ロケットって……萎えっ萎えじゃねぇの」


「う……」


 自称「ロケット」の萎え具合。

 低い笑い声と不躾な視線に、ソレはますます可哀想な状態になってしまった。


「復活を待ってるよ。ベッドで。ハハッ……」


 幾ヶ瀬が早々に風呂を出たのは、言うまでもない。


「夏のなごり」完


11「そうだったのか、胡桃沢家」につづく

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