夏のなごり6

 【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】





 1時間後。


 いくぶん恐怖が薄れた幾ヶ瀬は、有夏に促されるがままに風呂に入った。


「『てるてる坊主』本当に本当に怖かった。稲川淳二先生を見る前に、お風呂入っときゃ良かったよ……」


 脱衣場でも何度も口にし、風呂の蓋をあけながらもまた同じ台詞を口にする。


 一緒に入ろうと誘ったものの、夕飯前に入浴を済ませた有夏には「は?」と返されてしまう。


 気持ちを紛らわせるために、か細い声で鼻歌など口遊みながらシャンプーを泡立てている。


 背後なんて気にするまいと、歌は陽気なものをセレクトしたようだ。


「♪ときはなてぇ~こころにねむるぅすべてのパワーをぉぉとざ……え? えっ?」


 下手くそな歌が途切れ、彼は恐る恐る背後に視線を送った。


「き、気のせいだよな」


 何か音がしたような気がしたのだ。


 有夏の脅しを脳裏から振り払うように、体を前後に揺すってリズムをとる。


「♪とざされたぁ~さだめのりこえぇおお……きゃっ!?」


 幾ヶ瀬の悲鳴。


 気のせいなんかじゃない。


「今……いま……」


 コンコンと音がした。

 とっさに周囲に視線を走らせるも、音がどこから聞こえたかは分からない。


 見られている──そんな気がするだけ。


 風呂から出たい。

 さっさとシャンプーを洗い流してしまいたいが、それすらも怖い。

 最早、眼前の鏡から目を逸らすことすらできない。


 全身を硬直させた彼に、更なる恐怖が襲い掛かる。







0 件のコメント:

コメントを投稿