おやくそく(1)

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 「まさかこんなことが現実にあるなんて……」

「いや、ありえない。何かの間違いじゃ……」

「信じられないよ。絶対におかしいって……」


 ブツブツ。ブツブツ。

 壁の一点を見つめ、独り言を繰り返すのは幾ヶ瀬である。

 アリエナイ、アリエナイ……と呟きながら、かれこれ数十分が経ったろうか。


「何やってんの、いくせー」


 幾ヶ瀬の葛藤をよそに、相変わらずノンキな声は有夏のものだ。

 足元から聞こえてくるのは、当の有夏が床に転がっているせいである。

 分厚い雑誌を左手に、右手だけをプラプラ振ってみせた。


「ノドかわいた。のーみーもーのー」


 例によって、である。

 これはナマケモノ以外の何者でもない。


 そんな有夏を見下ろす幾ヶ瀬のじっとりした視線。


「俺の唾液で良ければ飲む?」


「のむのむ。ゴクゴクって……そんなん飲むか―――ッ!!」


 跳ね起きて叫んだ有夏。

 まさかのノリツッコミに、自分ひとりで爆笑していた。


「おやくそく2」につづく

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