夏のなごり3

 【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】




「……お前スキだなぁ。いっつもキャーキャー言うくせに」


「何年もずっと探してたんだけど、全然なくて。この店でやっと見付けたんだよ!」


「はぁ……」


 幾ヶ瀬は意外とホラー好きだ。


 テレビの心霊番組も欠かさず見る。


 見られない時間帯のものは録画までして。


 好きなくせに1人では怖くて見られないという彼に、いつも付き合ってやる有夏は、そのテのものにはまったく動じない。興味もないと言う。


「オバケより、リアルにうちの姉ちゃんらの方が怖いわ」なんて言って。


 最近めっきり見なくなったビデオテープというものをじっくり眺めてから、幾ヶ瀬はデッキの中へそれを押し込んだ。


 ガコンと音をたててテープが吸い込まれる。


 中でウィーンと動く気配。


「ささ、有夏」


 幾ヶ瀬が麦茶を用意すると、アイスを食べ終わった有夏はちゃっかりプチの「チョコラングドシャ」と「フランスバターのクッキー」を出してきた。


「別に幾ヶ瀬が見たいってんなら付き合うけどさ。面白いか? 稲川淳二。何言ってっか分かんないだろ。字幕がなきゃさっぱり……」


「あっ、有夏! コラッ! 怪談の神に何てことを!!」


「怖くないし」


「だから何てことを! それがいいんだってば。日常のふとした隙間に思わぬ怪異がっていうのを、独特の語り口で話してくれるんだよ。あの人は日本が誇る職人だよ!」


「ほぅ、語るねぇ」


「ジャパニーズホラーみたいに、やたらめったら脅かしてくるんじゃなくて、怪談ってのはどこか人間臭さが残ってて、あったかいんだよ。そこがいいんだって」


「……語るねぇ」


 なんてやっている間に始まったようだ。


 どこか荒いビデオテープの映像に「怪談の神」が映っている。


『スタッフの女の子がガタガタ震えている。稲川さぁん、ちょっと聞いてくださいよという。まっ……青な顔をしてブツブツ言ってる。こわいよーこわいよー』


「えっ、幾ヶ瀬? これ何言って……?」





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