夏のなごり5

【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】





 「な、何?」


 意味深な沈黙ののち、有夏は呟いた。


「知ってる? ここのフロ場ってさ……」


「えっ、ここのお風呂場がなに……?」


「実は……」


「あーーー! いやぁぁぁぁ!! やぁーめぇーてぇぇー!!!」


 絶叫に有夏、ニヤリと笑う。


「頭洗ってるとき、背後で……」


「あぎゃーーー! うぎゃーーー!!」


 有夏が爆笑し、ようやく幾ヶ瀬は我に返ったようだ。


「ひ、ひどい……。有夏、嘘だよね? やめてよ、本当に。怒るよ?」


 有夏は目をこすった。


 笑いすぎて涙が出たらしい。


 大騒ぎしているうちにビデオは終わり、自動で巻き戻しを始めた。


「本当に怖かったけど、有夏がうるさくしてくれたおかげで、気分も紛れたよ」


「うるさくしたのは幾ヶ瀬だけなんだけどな。第一、怖い気分を味わいたいがために、わざわざ金払って借りてきたんだろうが」


 小さく呟いて有夏は微笑む。


 やわらかな笑みは、整った容貌とあいまって誰もが見とれるものだったろう。


「え? 何なの、有夏……」


 だが、幾ヶ瀬は知っている。


 この笑顔を見せる時、有夏はロクでもないことを考えているのだと。


「フロ、入れよ?」


「えっ、いや、その……」


「フロ、入れよ!」


 完璧な笑顔に、幾ヶ瀬の表情が引きつる。

     ※





0 件のコメント:

コメントを投稿