夏だから…怖い話(9)




 意味深に言ったつもりなのだろう。
 もう片方の手がゆっくり伸びる。

 指先をつつかれて、何を思ったか有夏が幾ヶ瀬の手を握り返した。
 そのままブンブン振り回す。
 何だか楽しそうだ。

 しょうがないなと幾ヶ瀬も苦笑する。

 両手を繋いで立ち上がると、2人は小さな座卓の周りをグルグル回り始めた。

「アハハッ」

「あははっ」

 おかしな行動をとっている自覚はうっすらとある。
 だが、テンションが止まらない。

 グルグルグルグル。

 バタッと倒れたのは、幾ヶ瀬が足をもつれさせたからだった。

 ベッドに倒れ込む際とっさに手を放したから、有夏も共倒れになることは防げたのだが、足を擦っているところをみると座卓に脛をぶつけてしまったらしい。

「ははっ、大丈夫? あははっ、楽しい。何これ、夏のテンション?」

 笑いながら上体を起こした幾ヶ瀬の前に、有夏が立ち尽くしている。

「どした、あり……」

 いつになく表情が硬いと気付いた時だ。
 有夏が口を開いたのは。

「ふじょしって知ってる?」



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