お風呂をめぐるあれこれ(表)(8)

【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】

  画像を発見(?)してから丸3日──時間がくれば仕事に出かけ、時間になれば帰宅するいつもの毎日の中で、律儀なことにパニックは続いているらしい。


「兵隊さんねぇ。じっくりと見りゃ分かるだろうに…」


「えっ、なにが!?」


「いや、何でも……」


 パニックを起こしつつも身にしみついた習性というか、時間がくれば食事をつくってくれるので、有夏としてはひたすらに恩恵を享受している三日間なのである。

 食事だけではない。

 洗濯も掃除もいつものように完璧だ。


 しかし、この数日間で唯一やりきれない点がある。


「だからさ、幾ヶ瀬。いいかげんフロに入れよ」


「いやだ、またその話? だから! 有夏が一緒に入ってくれるんなら入る! じゃなきゃ、俺入んないッ!」


「俺入んないって……」


 この3日──この暑い時期の3日間、幾ヶ瀬は風呂に入っていないのだ。


 もう一度言う。このクソ暑い時期の3日間、幾ヶ瀬は風呂に入っていないのだ!


 1人で風呂に入るのが怖いのだという。


 入んない、なんて言い張る。

 入んないったら入んない、なんて言い張るのだ。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(9)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(7)

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 「パソコン開けるたびに幾ヶ瀬が驚いてくれるのは面白いんだけどさ。有夏、いいかげん飽きてきたよ……」


 ニヤニヤ顔を押し殺して大仰に溜め息をついてみせる有夏。


 そう、すべては三日前に始まる。

 いつものようにカカクコムをチェックするためにノートパソコンを開ける幾ヶ瀬を、有夏はさりげなく観察していた。

 それはもう両眼をガン開きしてつぶさに観察していたのだ。


 そうとも知らず幾ヶ瀬は、壁紙がいつものプリンではなく、自身の部屋に「へいたいさん」がいるというシュールな画像に変わっていたことで「ひぃぃ」と叫んでひっくり帰った。


 二日目の幾ヶ瀬の動きは全体的にぎこちなかった。

 パソコンを見ないようにしているようなのだが、いかんせん狭い部屋なので難しい。


 ついにパソコン自体を覆うように布をかけたが、その際チラと小指が天板に触れてしまったとかで、またもや「ひぃぃ」と叫んでいた。

 クローゼットに入れてしまえばいいのにそうしないのは、触ると呪いが発動するからだそうだ。


 そして今日も今日とて「ひぃぃ」と叫んでいる。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(8)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(6)

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 金色の兜、白のマントと白の前掛けには赤で十字のマークが書かれている。

 腰には剣。手には特徴的な三角形の盾を持っていた。


 それは、せせこましいワンルームアパートと実に相容れない光景であった。

 兵隊といっても西洋の、しかも1,000年ほど前の兵隊さんの姿なのだから。


「まぁ、兵隊さんっちゃあ兵隊さんだよな? ほんとは姉ちゃんなんだけども。しかし我ながら、かなり上手い仕上がり……」


 有夏の呟きなど、パニック状態の幾ヶ瀬の耳には入っちゃいまい。


「うちのへやにへいたいさんがいるぅぅ……」


 何も見るまいというかのように両手で己の目元を押さえ、床に突っ伏してしまった。


 ある日突然、ノートパソコンの壁紙がプリンから心霊画像に変わっていた。

 それだけで幾ヶ瀬にとっては青天の霹靂である。


 さらに恐ろしいのは、画像の部屋がここ──どう見てもこの部屋であるということなのだ。


 幾ヶ瀬が「ひぃひぃ」とわめくのは、自分の部屋を映した写真に兵隊さん?が映り込んでいるという事態にパニックを起こしているからに他ならない。


 しかもソイツがパソコンに浸食してきた。

 もう駄目だ。

 霊の悪意を感じる。

 もう駄目だ。


 ──ということらしい。

 なまじホラー好きなため、この状況に激しく動揺し危機感を抱いているようだ。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(7)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(5)

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「は、何?」


「ひぃぃ……」


 チラとデスクトップに視線を送って、有夏も一瞬、黙り込んだ。


「ひぃぃ…みせないでぇ。へいたいさんが……へいたいさんがいるからぁ……」


「幾ヶ瀬? 何言ってんの?」


「あぁぁ、へいたいさんがぁぁ…」


 いうまでもなく、これは幾ヶ瀬のノートパソコンである。

 電源を入れてすぐに目に入るデスクトップの壁紙には、彼が先日大量に作ったプリンの画像が設定されていた……はずだった。

 実にポップなテイストのプリンが並んでいる……はずだったのに。


 なのに。


「やめてやめて、みせないでぇぇ。へいたいさんがいるからぁぁ……」


 そう。今パソコンが映しているのはプリンなんて気楽なものではなかった。


 どこか薄暗い雰囲気の小さな部屋が画面いっぱいに映し出されていたのだ。

 ベッドや座卓が狭いワンルームにぎゅう詰めに押し込まれている。


 そして窓の向こうには人影が。


「へいたいさんがうつってるぅぅ。つらそうなかおしてこっちみてるぅぅぅ」


 ぼんやりと立ちつくし、こちらを見ているのは全身を鎧で覆った一人の人物だ。

「お風呂をめぐるあれこれ(表)(6)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(4)

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  有夏とて、オバケ(正確には「オバ」)を怖がる奴なんかに言われたくはない。

 とはいえ、このオバ攻め……完成度が低いと言われれば反論のしようもないのは自覚している。


 他に「オバ」のつく言葉はないものか。

 もうちょっと怖そうな「オバ」がいい。

 はじめに聞いたときは怖くなさそうだけど、じわじわと恐怖が効いてくる言葉はないものか。


 この際「ユウ」でも構わない。

 いっそ「ユウレ」のつく単語があれば…。


 ヤツが風呂に入っている間中、外から囁き続けてやろうとスマホに手を伸ばす。

 「ユウレ」で検索してやるつもりなのだ。


 しかし、放ったらかしのそれは例によって充電切れであった。


 致し方ない。

 面倒だがノートパソコンを開いた瞬間のこと。


「ひぃあああっっぁぁっ…!!」


 今までで一番の叫びをあげて幾ヶ瀬が床につっぷした。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(5)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(3)

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「ある日、道でオバ…」


「ひいっ!」


「オバサンが道を聞いてきたんだけど、何か声が聞こえるなって思ったらオバ…」


「ひいぃぃっ!」


「オバマ市へはどうやって行くんですかって言ってて、実は私オバ…」


「あひぃぃっ!」


「オバアチャンに会いに行くところなんですけど、ここにあるオバ…」


「うぐぅぅっ!」


「オバケカボチャがお土産なんですのよ、ウフフって言ってた。あ、いや、オババって笑ってた」


「ひっ……って、有夏! お土産まで見せて道聞く人いないって! 俺のこと馬鹿にしてるでしょ! 誰がオババって笑うっていうの!」


「おっと」


 ヒョイと肩をすくめる有夏。


「まさか、まともに反論されるとは」


「どっちかというと笑ってほしかったの?」との問いに神妙な顔のままコクリと頷いてみせた。

 途端、幾ヶ瀬の頬がぷぅと膨れる。


「人のこと笑わそうとするなら、それなりのクオリティが必要なんですぅ! 練り直してから挑戦してくださいぃ! そんなことじゃ立派な怪談系ユーチューバーにはなれませんー」


「うざっ! 誰が怪談系ユーチューバーだ」


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(4)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(2)

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「放せ、オバケじじぃ!」


「ひいいっ!」


 「お風呂」がなくなって「オバケ」と「じじぃ」というどうしようもない二単語が残った。

 しかしオバケじじぃこと幾ヶ瀬は「じじぃ」に腹を立てるよりも、「オバケ」という単語に悲鳴をあげる始末で、より強くしがみついてくる。


 「幽霊」は怖いけど「オバケ」なら平気、なんてことを言っていたのは幾ヶ瀬であったか。

 ガチな感じのソレに対して「オバケ」はどこか可愛らしく、キャラクターめいた印象を受けるのだとかなんとか。

(たしか学校配信ホラー回でヤツがそのようなことを口にしていたような気がするが、例によって作者は覚えていない。最近いろんなことを軒並み忘れるようになった!)


 しかし今の幾ヶ瀬ときたら「オバケ」でヒィヒィと悲鳴をあげているではないか。

 対処のしようがないと有夏は腕を組んだ。


 だが、有夏は有夏でまた悪いクセが出ている模様。

 神妙な様子で俯いたものの、その口元はニヤッと歪んでいる。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(3)」につづく

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お風呂をめぐるあれこれ(表)(1)

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「ねぇ、一緒にお風呂に入ってぇぇ」


「は? ヤだよ!」


「そう言わずにちょっとだけだからさぁぁ」


「はーなーせー!」


 このやりとり、一体何回目だろうと有夏はため息をついた。


「放せっ! キショイわ!」


 つかまれた腕を振り払うが、今度は体当たりするように足を抱えられ有夏はつんのめった。


 狭いワンルームである。

 ベッドの脚や座卓に身体をぶつけないように受け身をとりながら床に倒れ込んだものの、まだ相手は諦めていない様子。

 ズルズルと身体を引きずりながら、有夏の両足にしがみついている。


 ──本気で気色悪い!


「お風呂にぃぃ一緒にぃぃぃ」


 窓から差し込む街灯の光に眼鏡がピカピカ反射して、何だか妖怪じみている。


「ありかぁぁぁ、おふろぉぉぉ……」


 名付けるなら「お風呂オバケ」だな、いや「妖怪風呂じじぃ」か?


 有夏が首をひねったのは、一瞬、ネーミングに悩んだからだ。


 しかし「お風呂オバケ」にしろ「妖怪風呂じじぃ」にしろ、自分にネーミングセンスがないことはすぐに分かったのだろう。

 その「オバケ」だか「じじぃ」だかを引きはがしにかかった。


「お風呂をめぐるあれこれ(表)(2)」につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(8)【完】

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  自分のパソコンに、いつの間にか紛れ込んでいたフォルダ。

 何だろうと訝しんで開くと、そこにあったのは自分の部屋の画像。

 そこに得体の知れないモノが映り込んでいる。


 ゾッとするだろう。


 この部屋に一体ナニがいるのだ。

 そう考えてパニックに陥るに違いない。


「カンっペキだ…」


 有夏は画像をデスクトップにピン留めした。

 画像名は意味深に「×××××」だ。


 早く発見しろ。早く、早く。


 そう念じながら早5日──。


 やけに無口な有夏は5日待った。


 それは執念以外の何ものでもない。


     ※


 そして、その時は訪れる。


 案の定「キャア―」と叫んだ幾ヶ瀬は、怖くてお風呂に入れなくなってしまったのだった。


 面白いような面倒臭いような反応に思いは複雑だ。


 そして有夏も気付いた。

 レポートをすっかり忘れてたことに。


 達成感と虚しさ──天秤にかけて傾くのはどちらだろう。



「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)」完

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40「こわい☆みかん」はコチラ

42「お風呂をめぐるあれこれ(表)」はコチラ

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(7)

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  これを幾ヶ瀬に見せると、きっと「キャァーーー」と叫んでぶっ倒れるに違いない。


「あぁ、もぅワクワクするぅ」


 帰って来たら速攻見せてやりたい。


 きっと「キャア」と叫んでおもらしをしてしまうに違いないから。


「どうしよう……胸がドキドキしてきた」


 楽しみで仕方がない…いや、待てよ。


 考えろ。

 幾ヶ瀬帰宅時のシミュレーションを行うのだ。


 ホラ怖がってと言わんばかりにこれを見せては効果は半減するのではないだろうか。


 幾ヶ瀬に、自分で発見してもらわなくてはならない。


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(8)」【完】につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(6)

【【BL】隣りの2人がイチャついている 目次と各話紹介はコチラ】


  まず現在のこの部屋を写真に撮って、PCに送っておく。


 次は繊細な作業に移る。


 奇抜な格好をしたバカ姉の画像を輪郭線に沿って切り抜いて、さらに画質を落とす。

 色調を少々青みがかったものにするだけで一気にそれらしくなるではないか。

 姉の輪郭をぼかして、特に足の部分を薄くする。


 そう、作っているのは心霊写真である。


 今日び、心霊写真は撮るものではなく作るものなのだ!


 目のあたりを灰色のブラシでなぞると、一気に怨霊感が増すから有夏としてもテンションが上がるわけで。


 最後にそれを幾ヶ瀬の部屋画像の上に配置すると、この部屋に十字軍の怨霊が現れたような絵が出来上がる。


「何でこの部屋に十字軍が……?」


 一瞬、拭えない違和感がちらつくが、まぁ気にするな。

 会心の出来に満足している。


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(7)」につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(5)

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  似合う似合わないの問題ではない。

 この格好を弟のスマホに送りつける神経がどうかしていると、そのとき有夏は思ったのだ。


 ヤツは何かのイベントに、この格好で繰り出すのであろう。

 ハメを外して捕まりゃいいんだと思う。


 まぁ、そんなことはどうでも良いとして。

 この画像を幾ヶ瀬のパソコンに転送したのは、何かに使えると思ったから。


 姉と思わなければこの画像は異様なものでしかない。

 古ぼけた団地の一室に、鎖帷子らしきものをまとった女がぼうと立っている。


 気持ち悪い、恐ろしいと、幾ヶ瀬がならきっと怖がるに違いない。

 そう、幾ヶ瀬が怖がるに違いないのだ!


 ひらめいたとばかりに有夏の口元がニヤリと歪んだ。


 早速、画像編集ソフトを立ち上げる。


 レポートの作成には1ミリも動かなかった指がするするとキーボード上を滑りはじめた。

 時間が経つのも忘れるこの感覚。


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(6)」につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(4)

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  フォルダに格納されていたのはたった1枚の画像データである。

 ごちゃごちゃした室内に女が立っている──というものだ。


 白いローブのような布を纏い、頭から鎖帷子のような網をかぶっている。

 胸元には布マジックで書かれたのだろう。いびつな赤の十字マーク。

 よく見ると鎖帷子じゃなくて、園芸用のネットのようだ。


 痛々しい事この上ないそれは、何番目かの姉のコスプレ写真であった。

「今度のイベントはコイツでいくつもりだが、どうだ?」と、いつだったか連絡がきたような気がするようなしないような……?


 姉が今ハマっているアニメに出てくるキャラクターなのだろう。

 多分、十字軍の兵士のコスプレだ。


 昔やった(やり込んだ)ゲームに似たような敵キャラがいたので分かる。

 ゲーム内ではたしか「クルセイド」といったか。

 集団で出現して結構強い呪文を唱えてくるので苦労した覚えがある。


 おそらくは手製のコスチュームなのだろう。

 何日も徹夜して仕上げたものを、とにかく誰かに見せたくて有夏に送ってきたに違いない。

(弟以外親しい友だちもいない姉の悲哀よ!)


 自撮り棒が画面の済にチラッと映りこんでいる。

 とにかく姉のドヤ顔がうざい。



有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(3)

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  とりあえずレポートを書かなければならない。

 ならないのだが…。


 新作アイス情報を検索したり、今さらながらハマったフリーレンの3期の公式HPをチェックしたり。

 Switchの新作ソフトについて調べたり。


 こういったときの常で、やらなくてはならないことには一向に手を付けられない。


 何と言うか……監視する人がいないから脱線は歯止めがきかないのだ。


 宿題あるある。

 あるいは、テスト前あるあるというやつか。


 PC内にこっそり入れているやりこみ型お店経営シミュレーションゲームを開こうものなら、際限なく時間が失われるのは分かっている。


 さすがにそれはマズイということは自分でも理解していた。


 なので、サイトを巡回してはホーム画面に戻ってという行為を繰り返し……。

 要は有夏は退屈でたまらなかったのだ。


 だからだろう。

 ソイツを見付けた時、胸が躍るのを感じたのは。


 そう。

 以前そのファイルを幾ヶ瀬のノートパソコンに転送していたのは自分だ。


 タイトル「アホの弟よ。ハロウィン候補なんだが」という画像フォルダには覚えがあった。


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(4)」につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(2)

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 まずはレポートなるものを提出するよう求められた。

 卒業のための、はじめの一歩らしい。


 とぼとぼと帰路についた有夏。

 致し方がないとパソコンを開いてみたものの、手が進むはずもない。


 今は夕方。

 幾ヶ瀬は仕事に行っている。


 疲れたとかだるいとか辞めたいとか店長が極悪人だとか常連のマダムがクソだとか。

 散々文句を垂れながら出て行った。


 でも仕事が楽しいのだろう。

 それは見ていて分かる。


 羨ましいような、あんな働き方はしたくないような。

 複雑な思いである。


 今日は遅番だからヤツの帰宅は24時を過ぎるだろう。


 一人でなんとかしなくてはなるまい。

 まずはお菓子とコーラを用意して、準備を整える。


 電源を入れるとパソコンが発熱するから、まずは自分:パソコン4:6の割合で扇風機をかけてやる。

(これは幾ヶ瀬がうるさく言うからだ。パソコンの寿命がこれで伸びるとヤツは信じている)


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(3)」につづく

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有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(1)

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 胡桃沢有夏は絶望していた。


 半年も大学をサボるとどうなるか(もちろん時々は行っていた!)身をもって知ることになる。

 課題が、レポートが、そして試験が。


 先日、学生課に呼び出されたのはそれらの説明のためであった。

 説明…というか説教というか。

 いや、放っておかれるよりずっといいのだろう。

 大学生相手に、懇切丁寧に状況説明をしてくれたのだから。


 他の学生たちはシュウカツなぞをしているらしい。

 メンセツなるものを受けた方が良いと言う大学の職員の、ゴミを見るような目つきがイヤだ。


 知らない人と…知らない大人と……きちんとした知らない大人と初対面で何を話すというのだ。

 考えただけでゾッとする。


「働かずに暮らしたい……」


 それは有夏にとって、切なる願い。

(まぁ誰だってそうだろうが!)


「有夏独白・お風呂をめぐるあれこれ(裏)(2)」につづく

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40「こわい☆みかん」はコチラ

42「お風呂をめぐるあれこれ(表)」はコチラ

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こわい☆みかん(13)【完】

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 「……にしたってコレ、エグい機械だよな」


 凄まじい回転をみせるフードプロセッサーの中で、みかんの皮はもはや形をとどめていない。

 あっというまに粉末状になってしまった。


 頬を上気させて粉末みかんを茶碗に移した幾ヶ瀬。

「はぁ……何だこれ。凄まじい達成感だ」と小さく呟いた。


「俺、明日早起きしてスーパー行ってくる! 今度は五キロ買ってくるよ。もっとみかんを食べるんだ。もっと皮を砕くんだ!」



 夜の夜中にそう宣言した幾ヶ瀬だが、翌朝ぼんやりとした表情で粉砕みかんを眺めることになる。


「……夕べのことあんまり覚えてないんだ。頭の中にみかん色の霧がかかったみたいで……」


 とりあえずこたつに座り、朝食代わりのみかんを食べるのだった。


「美味しい。なんで手の平がこんなにオレンジ色になってるのかなぁ」


 ベッドを占領してぐぅぐぅ寝こけている有夏がうなされる気配。


「うーん、こわいみかん……」


「こわい☆みかん」完
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39「にんげんだもの」はコチラ

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こわい☆みかん(12)

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 幾ヶ瀬ときたら、乾燥してシワシワに縮んだみかんの皮を手の中で細かく千切っている。


 満足げに微笑みながら、細かくなった皮をフードプロセッサーの中に投入した。


「チャーンチャチャチャン♪ チャーンチャチャチャン♪ みかんの皮が美味しい季節。あなたのためにお茶にします」


 変な節を付けながら、いざ、スイッチオン。

 有夏が横でドン引きしている。


「今のメロディどっかで聞いたと思ったら、怪談グランプリのオープニング曲じゃ……」


 毎週のように一緒に見ている──見させられているせいで、オープニングの映像までありありと脳内再生できるのだろう。

 有夏はとても嫌そうな顔をしていた。

 満足げに目を細めてコクコク頷いてみせる幾ヶ瀬に対して、最早ツッこむ気もなさそうだ。


「こわい☆みかん13」【完】につづく

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こわい☆みかん(11)

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 「幾ヶ瀬? だいじょうぶ?」


 少し離れた位置から菜箸の先でつついてくる有夏に、幾ヶ瀬は晴れやかな笑顔を見せた。


「食べようよ。みかんの皮まで、何もかも!」


 憑き物が落ちたような清々しい表情で、鍋に湯を沸かし始めた。


「よし。マーマレードにするぞ。早い方がいいよね」


「みかんの皮を食べる? しかもこの時間から?」


 珍しくまともな反応を返す有夏だが、残念ながら幾ヶ瀬には届いちゃいない。


 鼻歌を歌いながらかなり本格派のフードプロセッサーを取り出している。


「有夏がくれたビッグのお金で買っちゃった。前から欲しかったんだよね。骨まで粉砕できる超強力フードプロセッサー」


 これはスイッチが入ってしまったか。

 乾燥した皮はお茶にするといいね。風邪予防にもなるねと、聞かれてもいないのに説明を始めた。


「ああ、早くフードプロサッサーを使いたい。早く回したい。スイッチ入れたい。みかんの皮が粉砕されてくとこ見たい」


「みかんの皮を食べる? しかもこの時間から?」


 有夏の問いかけは、今回も無視された。


「こわい☆みかん12」につづく

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こわい☆みかん(10)

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 あるいは両方なのか?

 みかんはその美味しさで人を虜にし、そして憑りついてしまう魔物なのだろうか。


 よく見れば手の平がまっ黄色だ。

 みかんをよく食べる人は、その色素が皮膚に沈着してこんな色になるという。


 ふるふると両手を震わせて、幾ヶ瀬は宣言した。


「信じられないけど俺、俺……みかんに憑りつかれたんだ。どうしよう……」


「どうしようって言っても、もうどうしようもないよね」


「冷たっ! 待って待って。決めたよ。俺、この恐怖体験ひっさげて来年の怪談グランプリにエントリーする。優勝間違いなしだよ!」


「う、うん……」


 びっくりするくらいのポジティブ思考である。


 もしかしたら稲川大先生にお会いできるかもしれないと、幾ヶ瀬は鼻歌交じりにみかんの皮の状態をチェックしてはじめた。

 乾燥して小さく縮んでいるものを触って「よしよし」と頷いている。

 目がバッキバキだ。


「こわい☆みかん11」につづく

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