有夏チャンのこっちのおクチはウソがつけない5

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 「なんで!? 最初はちゃんとあったでしょ。まさかまたゴミに埋もれて……」

 

「ちがうっ! こないだ片づけたばっかじゃねぇか。そんなすぐ散らかさんわ」

 

「いや、有夏ならありうる。有夏ならやりかねない」

 

「おま……」

 

 幾ヶ瀬を一睨みする有夏。

 

 冷蔵庫ショックのあまり少々おかしくなっているのだと、暴言は水に流す。

 

「うちの実家で20年使ってるやつが、冷凍部分だけ壊れたんだと。去年だっけな……麗華姉が来てかついで帰った。有夏のアイスが入ってたのに、問答無用ってかんじで奪われた」

 

「何だ、そうか……担いで? え?」

 

 急に我に返ったらしい幾ヶ瀬が眼鏡を外して瞬きを繰り返す。

 

「麗華姉、柔道の師範だから。修行とかそういうの、ムヤミに大好きだから」

 

「へ、へぇ……」

 

「元々あの部屋、響華姉が男と住むって借りた部屋だし。家具だって有夏は1円も出してないし」

 

「へぇ……」

 

「持ってかれてもしゃあねぇわ。有夏はとにかく逆らえない」

 

「へ、へぇ……」

 

 姉弟の中での有夏のヒエラルキーの低さは幾ヶ瀬も承知している。

 

 仕方のないことだと妙に納得したようだ。

 

「で、でも麗華お姉さん? 1番上の? 柔道してるって意外だね。六華姉妹ってモデルでもしてそうなイメージなんだけど」

 

「あ、一番下の百華姉が……」

 

「ええっ、まさかモデルをっ?」


 突如、幾ヶ瀬が色めき立つ。

 自分で発した「モデル」という言葉に、フンスと鼻息を荒くした。

 この男、得てしてこういうところがあるのだ。

 

「いや、地下アイドルのおっかけしてる」

 

「……ああ、地下アイドルじゃなくて、おっかけの方なんだ」


 ……どうやら興が冷めたらしい。





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