「うぅ……」
仕方ない。
自首する凶悪犯の気持ちでアタシはドアを開けた。
すみませんでした、と言いかけた時だ。
ヘンタイメガネがアタシを押し退けて部屋の中へ侵入したのだ。
止める間もない。
無言で狭い部屋を見回し、キッチンスペースを確認し、お風呂とトイレまで見やがった。
「ちょっと、何するんですか。乙女の部屋を」
「誰が乙女……クソビッチが! ああ……すみませんね。まさかと思ったけど、一応確認したかっただけなんで。居ませんでした、はい」
今小っさい声でクソビッチって言ったな。
「誰か探してるんですかぁ? 同居してる胡桃沢さんのことですかぁ?」
「同居じゃない。同棲だ!」
一応気ぃ遣って「同居」って言ってやったのに、真っ向から言い切りやがった。
アタシは知ってるぞ?
正しくは同居でも同棲でもねぇぞ?
有夏チャンの部屋は別にあるんだから。
幾ヶ瀬による強制掃除が完了すると有夏チャン、自分の部屋に戻るじゃないか。
すぐに散らかしてゴミ屋敷に戻ってしまうんだが。
……悲しいかな、有夏チャン。
こう書くと、まるで本当にダメ人間みたいだ。
「胡桃沢さん、出て行っちゃったんですかぁ。さっきケンカみたいな大きな声が聞こえてましたもんねぇ」
おっとヤバイかな。怒らせちまうかな。
ノゾキがバレたわけじゃないとホッとしたアタシ、ちょっと大胆に出てみた。
「珍しいですね。胡桃沢さんが怒るなんて。いつも穏やかにお菓子食べて……」
あ、ヤバイと気付いた。
ヘンタイメガネが試合前のボクサーみたいに「フシューッ」と息を吐いたからだ。
「期限切れの菓子で有夏を餌付けしようったって、そうはいかないからな。この雌豚が」
「ヒィ。ごめんなさい……」
何てことだ、面と向かってメスブタ呼ばわりされた!
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