ヘンタイメガネの変態たる所以4







「幾ヶ瀬ぇ―?」

「しかも中島のヤツ、ことあるごとに有夏のこと『有夏チャン』って呼んでたよね。身の程も知らず抜け抜けと……」

「何だよ。有夏のことは大抵のヤツが有夏チャンって呼ぶよ? おかしいだろが、幾ヶ瀬。中島はしょうもないヤツで、ホントにしょうもない友だちで、高校卒業してから一回も会ってないしょうもない奴なんだ。第一、アイツはしょうもない」

 思いつめたようにブツブツ言い始めた幾ヶ瀬と、床に転がったスマホを見比べ、有夏チャンは小さくため息をついた。

 子供っぽくダダをこねる有夏チャンを、ヘンタイメガネがデレながら宥める光景はよくみるけど、今回のコレはちょっと険悪な感じだ。

 それにしても見知らぬナカジマよ。
 あの有夏チャンに「しょうもない」を連呼されて、何だか哀れな奴だな。
 あの有夏チャンに「バカ」とも連呼されていたな。どうにも哀れな奴だ。

「有夏……」

「何だよ」

 幾ヶ瀬がスマホを拾い上げた。

「ごめんね、有夏。勝手に解約して。また携帯買おうね」

 有夏の表情が和らぐ。

 明らかにホッとしたように見受けられた。

 だがその顔は次の瞬間、凍り付く。

「有夏は俺とだけ連絡取れるやつ持ってりゃいいんだよ。他の奴と会ってちゃんと話なんてできるの? どうせ何も喋れないでしょ。隣りのクソビッチにさえウンとかウウンしか言えないくせに」

 突然名前が出て──いや、名前じゃねぇけどな──盗み聞きしていたアタシは腰を抜かした。

 同時に有夏が立ち上がる。

 床を蹴るようにして玄関へ。

「有夏、どこ行くの!」

「うっざい! ついて来んな。キモいわ、死ね!」

 相変わらず語彙は乏しいが、押し殺した声に怒りがにじみ出ている。

 玄関の扉が大きな音をたててバタンと閉まり、アタシの部屋の家具たちがまたびっくりして跳ねた。

 アラヤダ、これって修羅場ってやつじゃね?

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