「俺が悪かった! ここを開けてくれ、有夏!! 許してくれーっ!!!」
アタシもスタッフもドン引き。
周りの個室も異様な静けさで静まり返っている。
ジュースを啜る音も、ページをめくる音もしやしない。
ゾッとするような空気の中、ヘンタイメガネが個室の前で何やら喚き散らしている。
「もう中島の悪口は言わないから! あの疎ましき中島の悪口!! 有夏が隣りのクソビッチに安い駄菓子貰ってるとこも監視しないから! 俺が留守の間に有夏が何してるか気になるけど、盗聴器しかけたりもしないからぁぁ! 有夏とヤッてるとこ録画しといて1人の時ヌこうかと思ってたけど、それもしないからぁぁぁっ!!!」
このヘンタイメガネ、何言ってんだろうか、この変態は!
扉はピクリとも動かない。
当然か。
有夏チャン、これは出れないわ。
怒ってるとかじゃなくて、このタイミングで出るに出られんわ。
しばらくの間、その場に正座した変態メガネは泣き喚く。
時間にして3分くらいだったろうか。
この時間の何と長かったことか。
地獄のような一瞬一瞬の積み重ねの後、扉がほんの少しだけ開いた。
2cmほどの隙間。
そこから目だけが覗いている。
「有夏!?」
飛び上がったヘンタイメガネに一言。
「うるさい。死ね」
すっごい低い声でそう呟いて、彼は意を決したように出てきた。
今まで見たことないくらいにフードを目深にかぶっている。
ありかぁ……と泣き出すメガネを無視して、そそくさと清算を済ませると非常階段を脱兎のごとく駆け下りていった。
ヘンタイメガネも慌ててエレベーターに駆け込む。
「あ、ちょっと……!」
残されたのはポカンと口を開けたままのアタシ1人。
清算のタイミングで、瞬間的に通常業務に戻ったスタッフさんたちは凄いと思う。
「や、もう……すみませんねぇ。いやはや、参りましたねぇ」
胡麻化しながら? エレベーターを待つ時間の長いこと。
全然関係のないアタシなのに、これは絶対ヘンタイメガネの連れだと思われたな。
キツイ…キっついなー、この事態は。
もうこのネカフェ来れないよ。
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