和・洋・中・イタリアンにエスニックといった具合に、毎日趣向を凝らした弁当。
これがなかなかに美味であり、すっかり胃袋をつかまれた頃合いに告白され、そのままズルズルと数年。
気付けば半同居(ヤツは同棲と言い張る!)という今の状態である。
「ダメだ。起きなきゃ……」
せっかくの自由を享受しなくては。
寝てしまっては勿体ないとの思いと、ダラダラ昼寝に興じる背徳感。
その狭間で揺れていた有夏は、しかし意を決したようにベッドにダイブした。
「30分だけ……」
枕に顔を埋めて、両手をバタつかせる。
「……ひろい」
シングルサイズのベッドだが、やけに広く感じるらしく何度も寝返りをうってはため息をついている。
枕には、幾ヶ瀬の髪の匂いが残っているようで。
スンスン。
顔を枕に埋めた姿勢のまま、有夏は動かない。
「へんりひへにゃい……」
──返事、してない。
あのとき、弁当とともに囁かれた言葉。
それから今朝だって。
これまで何度「好き」と言われたか。
なのに、一度だって返事をしていないことに今気付いたのだ。
「らって、そんなのひちいちひうもんらない……」
──だって、そんなのいちいち言うもんじゃない。
今も耳の奥には幾ヶ瀬の声が残っているようで。
目を閉じると、すぐそばに顔が迫っているようで。
いつもならば、その手が有夏の頬に触れる筈なのに。
なのに、今はひとり。
有夏の両手の指は、枕の端を握り締めていた。
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