カラフル3







「さて、行ったな。何が浮気だ。キモいわ」

 廊下に顔を半分出してヒラヒラ振っていた手を止めると、有夏はじりじりと室内へ後退する。

 大学生の有夏にとっては、今は夏休みである。
 もっとも若干のコミュ障と、立派な引きこもりを抱えた有夏にとっては、年中休みという向きもあるが。
 自分のことを「有夏」と名前で呼ぶ様からも、彼がかなりのこじらせ方をしているのは想像がつこう。

 同じ間取りの隣りの自分の部屋、それからここ幾ヶ瀬の部屋だけが彼の王国だ。

 今は朝の6時前。

 幾ヶ瀬が戻ってくるのは明日の夜遅くになるという。

 その間、40時間ほどはあろうか。

「自由だ……」

 フフ……。

 ──途切れ途切れの低い笑い声が哄笑に変わる。

 特撮番組の悪役さながら、ひとしきり笑って。

 ノド乾いちゃったと呟いて彼は冷蔵庫を開けた。

 コーラとジュースのペットボトルを抱えて部屋へ戻る。

 狭い1DKの部屋に置かれた座卓には多数の飲み物と、それから様々なお菓子が並べられた。

 ビスコにポッキー、トッポにたけのこの里、それからカントリーマァムとグッピーラムネ。果ては酢こんぶまで揃えてある。

 例えるならば「小学生の夢の食卓」(酢こんぶはともかく)。
 彼はチョコ系が好きなのだが、夏場は溶けるので控えめだ。

 エアコンは勿論27度に設定してある。
 1人ならばこの程度が適温なのだ。

 そして彼はいそいそとPS4の電源を押した。

「幾ヶ瀬がいるとたった78時間やっただけで怒るから。目を休めろとか言って。有夏はお前の弟でも子供でもねぇぞ……ウヒャヒャ」

 声色を変えて台詞を叫んでは1人悦に入っている。

 有夏、朝から異様にテンションが高い。

 コントローラーを握る手が汚れないようにウェットティッシュも用意して準備万端。
 明朝までぶっ続けでゲームをする気のようだ。菓子を供に。

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