つぎのあさ9【完】

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「や、ごめ……」


 吸い付くようなその肌に一度触れれば、出勤時間も何もかもふっ飛んでしまうのは分かりきっている。
 ゴニョゴニョと口の中で呟きながら、幾ヶ瀬は立ち上がった。


「お、俺のプリンも食べてていいから。昼になったら一旦戻ってくるし。待ってて! 俺、行くね。バイバイ、アデュー」


 上着をつかむと玄関へ走る。

 

「アデューって…………」


 取り残される形となった有夏がふくれっ面で「いってらっさい」と手を振った。


 扉を閉めながら、その隙間から手を振り返して幾ヶ瀬は片手で拝むポーズをした。
 ごめんねのジェスチャーだろう。


「せっかく料理人に転職できたんだし。スプリングシーズンだってもうすぐ終わるし。俺、頑張るよ。有夏、愛してる! いってきます」


「あぁ!?」


 有夏の目元と耳たぶに朱が差す。
 それを残像として瞼に焼き付けたのだろう。

 頬をゆるめると、幾ヶ瀬はアパートの階段を駆け下りた。



「つぎのあさ」完


「そのイタズラは正義か悪か」につづく

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