かきまぜる行為2






「あ、有夏? ごめん、言い過ぎた。でも有夏が見てるって……」


「幾ヶ瀬しつこい。そんなに言わなくても有夏、自分で分かってるし」


「有夏?」


「料理できないし、片付けもできないし、掃除もできないし……」


「もしもし、有夏さん?」


 できないことはまだまだあるとばかりに、指を折って数えている様子。


「洗濯もしたくないし、できればダラダラ暮らしていたいし、永遠にゲームしてたいし……」


 それから有夏は突然、顔をあげた。


「幾ヶ瀬は有夏のどこがそんなにいいんだよ。やっぱ顔?」


「やっぱ顔って聞いちゃう、そのふてぶてしい所は結構好きだけどね」


 苦笑するしかないといった様子で、幾ヶ瀬は最後にもう一度鍋をかき回した。


 そんな彼の風呂上がりの首筋に、有夏の腕が回される。


「有夏のナカは?」


「えっ?」


 動揺からお玉を鍋の中に落とした幾ヶ瀬を、笑みを浮かべて見上げる。


「有夏のナカも、かき混ぜたい?」


「い、いいの?」


 例のネカフェ騒動以来、少しでも触れようものなら拒まれ、殴られるという罰を被っている幾ヶ瀬は、これだけで腰に巻いたタオルが落ち着かなく揺れる有り様。


 上ずった声で「本当にいいの?」なんて繰り返す様は、ちょっと情けないものがある。


「どうかなー。そこまで期待されるとなー」


 有夏の唇の端が吊り上がる。


「幾ヶ瀬ぇ……」


 甘えた声。


 餌に吸い寄せられる犬のように幾ヶ瀬の顔が近付いて来る。


 荒い呼吸を近くで感じて、有夏は勝ち誇ったように頬を紅潮させた。


 唇が触れる──その一瞬前。


「残念ながら腹がへったな」


 有夏は身体を引いた。








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