『あ、隣りの者なんですけどー。バイト先でお菓子いっぱいもらったんですー。おすそわけですー』
「あ、あわ…ああ……」
コミュ障なので返事はせずに、しかしお菓子は欲しいのだろう。
一瞬、部屋の中を振り返るも、幾ヶ瀬が動こうとしない様を認めて自分で玄関を開ける。
「と、隣りのクソビッ……あ、ありが……」
細く開いた隙間から白い手がスルリと入って来る様を見た幾ヶ瀬は、弾かれたように立ち上がった。
「有夏、そいつから離れてっ!」
有夏の肩をつかんで引き寄せる。
よろけた彼を庇うようにかき抱くと、玄関の隙間からこちらを覗く顔をジロリと睨んだ。
「うほっ♪」
女は顔をほころばせ、おかしな笑い声をあげた。
隙間に差し込まれた手は、すでに見慣れた感のある『お菓子のよしの』の紙袋。
ずっしりと重そうなのは、また有夏の好きそうな菓子類の小箱が詰められているからだろう。
「賞味期限ギリのやつなんですけどー。いっぱい貰ったんでー。ふひひっ。良かったらおふた…お2人で……へへっ。どうぞー。へっ…へへっ」
何だろう。
ヨダレを垂らしているようなのだが、さすがにそれは気のせいだろうか。
「夏だから…怖い話13」につづく
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