その間にもドンドンと──扉を叩く音は続く。
これは隣りの有夏の部屋と考えて間違いなさそうだ。
近所迷惑この上ない。
単身者向けのアパートで、今は平日の夕方なので、住人が全員留守をしていることを祈るばかりだ。
有夏の血縁であれば、多分周囲のことなど気にすることなく扉を叩き続けるに違いないと思い、幾ヶ瀬は意を決した。
「何で俺がこんなこと。掃除とか尻拭いばっかり……あの、こんにちはぁ!」
暗い顔でブツブツ言っていたのがドアを開けた瞬間、笑顔になったのは職場で接客をしている時間が長いせいだろう。
角部屋の扉を蹴っていた細身の女が「あぁん?」と振り返り、そしてこちらも急ににこやかな笑みを作った。
「あら、弟の友達の……えっと」
「あ、幾ヶ瀬ですぅ。あの、今いないと思いますよ?」
明らかな嘘に、さすがに視線が泳ぐ。
アパートの隣りの部屋に高校の時の友達(中学時代だっただろうか? 有夏と幾ヶ瀬のなれそめを、作者は忘れてしまった!)が住んでいて互いに行き来をしているというのは、胡桃沢家の姉たちは皆知っていることだった。
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